ホーム>患者さまへ>各種疾患・治療法>心房中隔欠損症に対するカテーテル閉鎖術

患者さまへ

各種疾患・治療法

心房中隔欠損症に対するカテーテル治療

心房中隔欠損症について

心房中隔欠損症(Atrial septal defect:ASD)は右心房と左心房を隔てる壁(心房中隔)に穴があいている先天性心疾患で、成人においては最も頻度が高い先天性心疾患です。正常心では、肺に流れる血流(右心房→右心室→肺動脈→肺)と体に流れる血流(左心房→左心室→大動脈→体)は等しいのですが、心房中隔欠損症では欠損孔を介して左心房から右心房へと血液が流れるため、肺へ流れる血液が正常心と比較して多くなります。この結果、右心系ならびに肺循環に負担がかかる事になります。しかしながら心臓は大変余力をもって働いている臓器なので、多くの場合は代償といって血流量増加や圧増加の負担に対して心臓の容量が大きくなったり、壁が厚くなったりすることで、この状態に適応しています。このため重症の場合を除いて自覚症状に乏しく、ほとんどの場合で成人になった後も無症状で経過しています。しかしながら年齢を重ねるごとに徐々に心臓の負荷が表面化し、いずれはほとんどの例で易疲労感、息切れ、動悸、不整脈、心不全などを呈するようになり、治療が必要な状態となります。通常、肺へ流れる血液と体へ流れる血液の比(肺体血流量比)が1.5を超えると診断された場合や、脳梗塞などの塞栓庄との関連がある場合は、心房中隔欠損症に対する閉鎖術の適応となります。


心房中隔欠損症に対するカテーテル閉鎖術

従来心房中隔欠損症は開胸手術でしか治療できませんでしたが、近年はカテーテル閉鎖術が主流になっています。このカテーテル治療によって、手術に比べて患者さんへの侵襲、負担を少なく、かつ安全に心房中隔欠損症を治療することが出来るようになりました。カテーテル閉鎖術は、すでに世界各国で20万件以上が、国内でも7000件以上が行われています。

ASD閉鎖デバイス
アンプラッツァー閉鎖栓 Figulla FlexⅡ
アンプラッツァー閉鎖栓 Figulla FlexⅡ

閉鎖栓は2種類あり、いずれもナイチノールという特殊な金属(形状記憶合金)をメッシュ状に編み込んで作られており、2重の傘のような形態になっています。欠損孔を閉鎖した時には2つの傘の間のくびれた部分(ウエスト)がちょうど欠損孔にはまり、2つの傘はそれぞれ左房側と右房側から心房中隔を挟み込む形になります。

カテーテル閉鎖術の実際

基本的には全身麻酔下に行います。またカテーテルや閉鎖栓の位置確認のためにX線透視装置、経食道心臓超音波を同時に用います。足の付け根にある静脈(大腿静脈)からカテーテル(管)を心臓まで挿入し、そのカテーテル内を通して閉鎖栓を心臓内へ持ち込みます(図1)。この時点では閉鎖栓はカテーテルと繋がっていて、術者が手元で操作をします。左房側で遠位側の傘を開き(図2)、ウエスト部が欠損孔に来るよう閉鎖栓の位置をあわせ(図3)、右房側で近位側の傘を開いて2つの傘が心房中隔を挟むようにします(図4)。経食道心臓超音波で閉鎖栓の位置などを確認し、問題がなければ閉鎖栓を外します(図5)。手技時間はおよそ1時間、麻酔の導入・覚醒を入れても多くの場合2時間以内で終了します。症例によりますが、治療後は5~6時間程度で病棟内を歩行することができます。

図1 図2 図3
図1 図2 図3
図4 図5  
図4 図5  
心房中隔欠損症カテーテル閉鎖術の利点と欠点

心房中隔欠損症に対するカテーテル閉鎖術の大きな利点は、外科手術に比べてはるかに低侵襲であることです。外科手術の場合は開胸し、人工心肺を用いる必要があります。また右心房に切開を入れなくてはなりません。一方、カテーテル閉鎖術ではカテーテルを挿入するために鼠径部を1ヶ所穿刺するだけで済み、治療後は2~3日で退院することが可能です。一方で、この治療の欠点はすべての心房中隔欠損症が閉鎖できるわけではないということです。まず、心房中隔欠損症にはいくつかのtypeがあり、カテーテル閉鎖術が可能なのは2次孔欠損型の心房中隔欠損症に限られます。さらに、欠損孔の大きさ、欠損孔周囲の縁(閉鎖栓の挟みシロ)、房室弁など周囲の構造物との距離によっては、閉鎖栓が安全かつ安定した状態で留置できないと判断され、適応外となることがあります。


岡山大学病院における心房中隔欠損症カテーテル閉鎖術の治療経験

心房中隔欠損症のカテーテル閉鎖術は2005年3月に厚生労働省より認可され、厳しい審査をクリアした認定施設・医師においてのみこの治療が可能となっています。当院では治療認可当初よりこの治療を開始し、2016年1月までに1,000件の治療を施行いたしました(グラフ参照)。そのうち成人に対する治療件数は600件を超え、現在において全国1位となっております。

当院における心房中隔欠損症カテーテル閉鎖術の年齢層別施行件数(2005年~2012年9月)

当院における心房中隔欠損症カテーテル閉鎖術の年齢層別施行件数(2005年~2012年9月)


心房中隔欠損症の合併疾患をお持ちの患者さまへ

心房中隔欠損症は、心不全、不整脈(特に心房細動)、肺高血圧症、他の先天性心疾患、脳梗塞などの併存が認められることが少なくありません。このため当院では、さまざまな病態を正確に把握し治療するために、循環器内科(カテーテルチーム、エコーチーム、不整脈チーム)、心臓血管外科、小児科、麻酔科、神経内科などが連携して心房中隔欠損症治療に取り組んでおります。心房中隔欠損症カテーテル閉鎖術のみならず、関連する各種検査、併存疾患の治療においても各分野が豊富な経験を有しております。


治療までの流れ

治療入院までの流れは、主に以下3つのパターンがあります。

  1. 当院外来(当科中川または各医師または心臓血管外科赤木医師)⇒検査入院⇒治療入院
  2. 紹介元の医療機関⇒当院外来(⇒検査入院)⇒治療入院
  3. 紹介元の医療機関⇒当科へご連絡(⇒検査入院)⇒治療入院

成人の患者様の場合は、当科各医師外来もしくは心臓血管外科赤木医師が外来診療の窓口になっております。また他医からの御紹介となる患者様の場合は、紹介元となる医療機関から直接ご連絡をいただければ、外来を経由せずに直接入院を予約することが可能です(カテーテル検査など未施行の場合は、治療入院に先立って通常は一度検査入院をしていただくことになります)。紹介元となる医療機関さまは下記問い合わせ先までご連絡ください。
なお、検査、治療とも入院期間は5泊6日程度が標準となっております。


紹介元医療機関 問い合わせ先

岡山大学循環器内科 医局
TEL: 086-235-7351
FAX: 086-235-7353
循環器内科担当医師  中川晃志
*患者さま個人からのお電話、FAXでのご相談は受け付けておりませんので、ご了承願います。


外部リンク

ページの先頭へ