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WATCHMAN™を用いた経皮的左心耳閉鎖術 ~心房細動の塞栓症予防:抗凝固薬以外の選択肢~

心房細動と抗凝固薬について

心房細動の患者さんは、左心房に血液が滞留し血栓が出来やすくなっています。形成された血栓が血流にのって飛んでいき、どこかの血管に詰まる病気を血栓塞栓症と言います。例えば脳血管に血栓塞栓症が生じた場合は脳梗塞を起こします。このため心房細動の患者さんは長期間にわたり抗凝固療薬(ワーファリン、プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナ)を内服して、血栓が左心房に形成されることを予防する必要があります。


抗凝固薬と出血リスクについて

一方で抗凝固薬の服用は出血性合併症のリスクとなります。重大な出血は命に関わる状態をもたらす可能性があります。出血性合併症のリスクの大きさは個人個人で異なりますが、大出血の既往(消化管出血、喀血、膀胱出血、不正性器出血など)、脳卒中の既往、高齢、高血圧、腎機能障害、肝機能障害、抗血小板剤(バイアスピリン、バファリン、プラビックス、エフィエントなど)の併用、アルコールの常飲、繰り返す転倒などは出血リスクを高める要因です。これまでは、これら出血性合併症のリスクが高い心房細動患者さんにおいても、①出血リスクは高いが通常通りに抗凝固薬を継続服用する、②出血リスクを減らすために脳卒中予防としては不適切に少ない量で抗凝固薬を継続服用する、③抗凝固薬を服用しない、のいずれかを選択せざるを得ず、患者様には何らかの不安、リスクを強いなくてはなりませんでした。


左心耳とは?経皮的左心耳閉鎖術とは?

心房細動患者さんの心房内血栓のおよそ90%は、左心房の中の左心耳(さしんじ)という袋のようになっている箇所に形成されることが分かっています。経皮的左心耳閉鎖術は、この左心耳を医療器具(閉鎖栓)により閉鎖することで心房内血栓の形成を防ぎ、脳卒中を予防するカテーテル治療です。また本治療を行うことで、抗凝固療法を中止することができるため、出血リスクを大幅に軽減することが可能です。(*左心耳には明らかな生理的機能・役割が示されておらず、左心耳閉鎖を閉鎖すること自体による機能的な障害は生じません)

経皮的左心耳閉鎖術に用いる閉鎖栓は、WATCHMAN(ウォッチマン)™という名称です。WATCHMAN™は、ナイチノールと呼ばれる特殊な金属(一般的に医療機器に用いられています)から作られた自己拡張型の閉鎖栓で、サイズは概ね500円玉ぐらいの大きさです。WATCHMAN™は左心耳入口部あるいはわずかに遠位側の位置に永久に留置されます。この閉鎖栓を使った治療は10年以上前から欧米を中心に始まり、アジア各国をはじめ、これまでに10万人を越える方々に対して治療が行われてきています。


具体的な治療方法

この治療法は、手術の時と同じように人工呼吸器を使った全身麻酔下に行います。閉鎖栓が左心耳の目的の部位にきちんと留置できているかどうか、レントゲンによる透視像と経食道心エコー(胃カメラのような管にエコーの機能がついた装置)をつかってモニターしながら、安全を確認して留置します。治療時間は約1時間が目安です。またこの治療に要する入院期間は5日程度です。


この治療のメリットとデメリット

<メリット>
・99%の患者さんが、治療後1年以内に抗凝固薬を中止することができます。
・原則として1回限りの治療であり、繰り返し行う必要はありません
・脳卒中、全身への塞栓症、心血管疾患による死亡、原因不明の死亡に対する治療の有効性はワルファリン服用中と同等です。
・これまでの報告において、ワルファリン服用と比べて致死的または後遺症を伴う脳卒中はて55%減少、出血性脳卒中は80%減少、大出血は72%減少したことが示されています。

<デメリット>
・左心耳の形態や大きさによっては治療が出来ないことがあります。
・1.5%程度の手技合併症があります。
・術後に3~4%の患者さんで閉鎖栓に血栓ができることがあります。
・左心耳が完全に閉鎖できずに左心耳への血流が残る可能性があります。
・左心耳以外に左房内血栓ができる可能性があります。
・術後の抗血栓療法による出血リスクは残ります


問い合わせ等連絡先

<治療の内容に関して>
岡山大学病院 循環器内科 中川晃志
住所:〒700-8558 岡山市北区鹿田町二丁目5番1号 ☎ 086-235-7351(医局)
<外来受診(予約)に関して> 
岡山大学病院 ☎ 086-235-7921(内科外来)


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