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前兆を伴う片頭痛に対する卵円孔閉鎖術治験について

岡山大学循環器内科では岡山大学倫理委員会の承認をえて、通常の薬物療法では十分効果の得られない片頭痛の方に対して,心臓の中の小さな孔(卵円孔)を閉鎖することによってその治療効果を判定するという医師主導治験を2019年8月より開始することになりました。以下に,その内容をご説明いたします。


片頭痛とは

片頭痛とは、ズキズキとした拍動性の痛みが特徴の強い頭痛です。動くと痛みが悪化するため、片頭痛が始まると動けなくなる方が多くいます。吐き気、光・音に敏感になるなどの症状を伴うことが多く,15歳以上の8.4%、特に30~40代の女性の18%に認められると報告されています。約3分の1の方は前兆のある片頭痛、残りの3分の2の方が前兆のない片頭痛です。前兆には視覚症状、感覚症状などがあり、特に視覚症状としては光るギザギザが見えるというのが特徴的な症状です。

  • ズキズキとした拍動性の痛みが特徴の強い頭痛
  • 動くと痛みが悪化するため,片頭痛が始まると動けなくなる
  • 吐き気,光・音に敏感になるなどの症状を伴う
  • 有病率:15歳以上の成人の8.4%(30~40代女性の18%)
  • 前兆あり(約3分の1),前兆なし(約3分の2)
  • 前兆には視覚症状(光るギザギザ),感覚症状などがある
    (慢性頭痛のガイドライン2013)
片頭痛とは

NHK 今日の健康より


卵円孔開存とは

卵円孔とは胎児期の心臓にある右の心房と左の心房をつなぐ隙間(孔)です。出生後は自然に閉鎖するのですが、健康な大人の成人でも約20%の人は小さな隙間として残っており,この状態を卵円孔開存と呼びます。卵円孔開存は通常の検査(レントゲン,心電図,心エコー)で診断することは難しく、特殊な心エコー検査を行う必要があります。

  • 胎児期の心臓にある右心房と左心房をつなぐ孔
  • 胎児期に胎盤からの酸素を含んだ血液を右心房から左心房を経て全身へと導くための構造
  • 出生後は自然閉鎖するが、成人の約20%は開存
  • 特殊な検査でないと診断できない
卵円孔開存とは

片頭痛と卵円孔開存の関係

前兆のある片頭痛の方は約50%に卵円孔があると言われています。卵円孔開存のある方は通常の方と比べると3.2倍の確率で前兆のある片頭痛があることが報告されています。このため前兆のある片頭痛と卵円孔開存の関連性があるのではないかと考えられていますが,卵円孔を閉じて前兆のある片頭痛が改善するかどうか、科学的に証明されていません。

  • 前兆のある片頭痛患者:約50%に卵円孔開存
  • 卵円孔開存のある患者:通常の3.2倍の確率で前兆のある片頭痛
  • 前兆のある片頭痛と卵円孔開存の関連性が考えられている
  • 卵円孔開存を閉じると前兆のある片頭痛が改善するかは,科学的に証明されていない
    (慢性頭痛のガイドライン2013)

本治験のコンセプト

もしも卵円孔を通過する物質が何らかの片頭痛の引き金の物質を放出し最終的に片頭痛が起こるのであれば、卵円孔を閉鎖することでこの物質が脳に到達することを防ぎ、頭痛の引き金となる神経伝達物質の放出を抑制し、最終的に片頭痛の頻度が低下するのではないかと推測しています。

本治験コンセプト01

治験の対象となる患者さん

前兆のある片頭痛の方が対象です。50歳までに片頭痛を発症した方。現在まで片頭痛予防薬2剤を含む片頭痛の標準治療を受けたことがあるにも関わらず、前兆のある片頭痛発作を認める方。そして年齢が16歳以上60歳未満の方が対象です。

  • 前兆のある片頭痛と診断されている方
  • 50歳までに片頭痛を発症した方
  • 現在まで片頭痛予防薬2剤を含む片頭痛の標準治療を受けたことがあるにも関わらず、前兆のある片頭痛発作をみとめる方
    (片頭痛予防薬とは頭痛ガイドラインに定められた医薬品です)
  • 検査で卵円孔開存を確認されている方
  • 年齢が16歳以上60歳未満の方

治験で使用する閉塞栓

この治験では新しい卵円孔閉鎖栓を使用します。この閉鎖栓はニチノールと呼ばれる特殊な金属の細い線からつくられたメッシュ状の閉鎖栓です。閉鎖栓は脚の付け根の部分から直径3mmくらいの管を挿入し心臓の中に留置します。閉鎖栓のくびれた部分を心臓の穴の部分にあわせるように入れて,左右の広がった部分で穴の両側からはさみ込んで穴を閉じます。治療は鎮静薬を使用して,眠った状態で行います。約1時間の治療です。閉鎖栓を一度留置すると、通常3か月以内に自分の心臓の膜で覆われ、ずれたり外れたりすることはありません。閉鎖栓はMRIにも対応していますので治療を受けた後でも、これまで通りMRI検査を受けることが可能です。


治験のスケジュール

治験への参加の同意をいただいた後,診察、心電図、血液検査、超音波検査(経食道心エコー)を行います。これらの検査で卵円孔開存がみつかり,かつ片頭痛の基準を満たした患者さんは4週間の期間,頭痛日誌をつけていただき片頭痛の評価を行います。この調査で治験参加の条件を満たした場合には、入院してのカテーテル治療となります。
これまでの片頭痛に対する治療で片頭痛の症状や感じ方には治療を受けたこと自体が無意識に影響を与えて、本来効果のない治療であっても片頭痛の症状が軽くなること(プラセボ効果)があると知られています。このためこの治験では治療の有効性を正しく評価するために、半数の患者さんには実際にカテーテル治療を受けていただき、残りの半分の患者さんにはカテーテルを入れるだけの疑似治療を受けていただくことにしました。すなわち、治験に参加されるすべての患者さんにはカテーテル室で鎮静薬を使った状態でカテーテルを挿入することになります。試験群になった場合にはそのまま卵円孔を閉鎖する治療が行われます。もしも疑似治療群になった場合には卵円孔を閉鎖することなく管を抜きます。これらの治療はご自身がどちらの群に入ったかわからないように行います。その後、試験群、疑似治療群にかかわらず、血栓予防の薬を約6か月間服用します。6か月から9か月の間に起こった前兆を伴う片頭痛の日数を評価したあとに、どちらのグループに入っていたかをお伝えします。もしも疑似治療群に入っていた場合には、ご希望のある場合、その後に治療を受けることができます。最終的には希望されるすべての方に卵円孔のカテーテル治療を受けていただくことができます。この治療効果を検討する約9か月の期間中、自分がどちらのグループに入っているかとても気になるかと思いますが、治験の意義をご配慮いただき、医療スタッフなどに治療内容についてお尋ねになることはお控えください。

治験のスケジュール

治験スケジュールのポイント
  1. 治療の有効性を正しく評価するために,半数の患者さんは実際にカテーテル閉鎖術を行い,残りの半数の患者さんにはカテーテルをいれるだけの疑似治療を行います
  2. すべての患者さんはカテーテル室で鎮静薬を使用し眠った状態で,治療を行います.試験群の場合には閉鎖治療が行われます.擬似治療群では閉鎖は行われません.どちらのグループに入ったか分かりません
  3. 試験群・対照群にかかわらず,血栓予防の薬を24週間服用します。
  4. 24週から36週後の間に起こった前兆を伴う片頭痛を評価した後にどちらのグループに入っていたかをお伝えします
  5. 疑似治療群に入っていた場合には,その後に閉鎖栓治療を受けることができます

治験に参加を希望される方:受診の前に
  1. 片頭痛の治療の基本は薬による治療です.頭痛専門医と相談のうえ,治験参加をご判断ください
  2. 治験実施施設への受診には紹介状が必要です.同時に頭痛日誌,薬の使用歴,頭部MRI検査所見(3か月以内のものがあれば)を持参ください
  3. カテーテル治療に用いる閉鎖栓,カテーテル治療手技料は治験のため免除されますが,それ以外の検査料,薬代,入院費,外来診察費は通常の保険診療となります.交通費などは個人の負担となります.治験参加の謝礼はありません
  4. 疑似治療群となった場合も同様の費用が発生します.疑似治療であったことが判明する9か月後以降に受けるカテーテル治療にも入院費が発生します

治験について詳しい情報は

この治験は治験を受ける患者さんにも大きなご負担をおかけすることになりますが,今後この治療が新しい医療として承認されるためには科学的な検証が必要です。ご協力をお願いいたします。この治験にご関心をお持ちの患者さんは、henzutsu@okayama-u.ac.jpまでご連絡ください。
(治験責任医師 赤木禎治)


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