各種疾患・治療法
肺高血圧症
1.肺高血圧症とはどんな病気?
肺高血圧症とは肺動脈の血圧(肺動脈圧)が高くなる疾患です。その原因は様々ですが、大きく7つのグループ(5群+亜系2群)に分けることができます(表1)。なかでも肺動脈性肺高血圧症は肺動脈の狭窄や閉塞により肺高血圧をきたし、膠原病・先天性心疾患・門脈圧亢進などの原因で生じます。また明らかな原因がない(特発性)場合もあります。以前肺動脈性肺高血圧症は予後が悪い疾患でしたが、近年多くの肺高血圧症治療薬が使用できるようになり、その予後は改善しています。
表1 ESCガイドライン2015
2.肺高血圧症の症状は?
動いたときの息切れ、疲れやすい、息苦しい、足のむくみ、失神、血痰などがみられます。
3.肺高血圧症の検査は?
肺高血圧症が疑われる症状があれば、胸部レントゲンや心電図、心臓超音波検査を行います。特に心臓超音波検査では肺動脈圧を推定することができるため、肺高血圧症の発見に役立ちます。これら検査で肺高血圧症が強く疑われれば、心臓カテーテル検査を行い、直接カテーテルを用いて肺動脈圧を測定します。平均肺動脈圧が25mmHg以上であれば、肺高血圧と診断されます。またCT、肺血流シンチ、腹部超音波、呼吸機能検査などを用いて、肺高血圧症の原因を調べます。
4.肺動脈性肺高血圧症の内科的治療は?
肺動脈性肺高血圧症そのものに対する治療とそれが進行して起こる右心不全に対する治療があります。肺動脈性肺高血圧症では、肺血管拡張物質であるプロスタサイクリンや一酸化窒素が低下し、肺血管収縮物質であるエンドセリンが上昇しています。これらを標的とした治療薬が肺動脈性肺高血圧症そのものに対する治療であり、いずれも肺動脈を優先的に拡張させます。経口薬としてプロスタサイクリン誘導体、エンドセリン受容体拮抗剤、ホスホジエステラーゼ5阻害剤、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、静注/皮下注薬としてプロスタサイクリン製剤があります(表2)。これらの薬を肺高血圧の重症度に応じて併用して用いることにより、肺高血圧の改善が期待できます。また酸素吸入も肺高血圧を改善させる治療法の一つです。右心不全に対しては利尿剤を用いて治療します。
表2
5.肺移植とは?
肺高血圧症治療薬の発展により、肺動脈性肺高血圧症で肺移植を受ける患者さんは減少傾向です。しかしながら内科的治療に抵抗性の患者さんも一定数います。また稀ですが、肺静脈や肺毛細血管が原因で肺高血圧になる肺静脈閉塞症や肺毛細血管腫症は、特異的肺高血圧症治療薬が奏功しません。このような症例においては、肺移植が唯一の治療法となります。肺移植には脳死肺移植と生体肺移植がありますが、近年臓器移植法の改正があったことから脳死肺移植が増加傾向にあります。
6.岡山大学循環器内科での肺高血圧症治療の特徴
エポプロステノール持続静注療法
2005年までは経口の特異的肺高血圧治療薬がなかったため、治療の中心はエポプロステノール持続静注療法でした。この治療は静脈カテーテルを留置し、在宅において患者さん自身で薬液の調整を行い、持続ポンプを用いて投与する治療法です。当院では70例を超えるエポプロステノール使用経験があり、薬液調整の方法や在宅でのカテーテル管理指導などをエポプロステノール導入時に行っています。
成人先天性心疾患に関連した肺高血圧
先天性心疾患が原因で肺高血圧症を生じることがあります。当院では2014年に成人先天性心疾患センターを開設後、成人先天性心疾患患者を診療する機会が増えました。また心房中隔欠損症に肺高血圧症を合併することがありますが、当院では300例を超えるカテーテル閉鎖術を行っており、このカテーテル閉鎖術と特異的肺高血圧治療薬を合わせた治療も行っています。
膠原病に関連した肺高血圧
リウマチや強皮症、全身性エリテマトーデスといった膠原病に肺高血圧症が合併することがあります。当科では膠原病・リウマチ内科と連携し肺高血圧症治療と膠原病治療を並行して行っています。
肺移植
1998年に岡山大学で日本初の肺移植が行われ、その後全国から肺移植目的で肺高血圧症の患者さんが多数紹介となりました。2015年末までに147例の肺移植を行っており、肺高血圧症に対する肺移植は37例と日本で最も多い施設です。当科では全国から紹介いただいた肺高血圧症患者の移植適応の判定や移植前検査などを行っています。
業績
- Akagi S, et al. Intratracheal administration of prostacyclin analog-incorporated nanoparticles ameliorates the development of monocrotaline and sugen/hypoxia-induced pulmonary arterial hypertension. J Cardiovasc Pharmacol. 2016
- Kijima Y, et al. Treat and Repair Strategy in Patients With Atrial Septal Defect and Significant Pulmonary Arterial Hypertension. Circ J. 2015
- Akagi S, et al. Catecholamine support at the initiation of epoprostenol therapy in pulmonary arterial hypertension. Ann Am Thorac Soc. 2014
- Nakamura K, et al. Pro-apoptotic effects of imatinib on PDGF-stimulated pulmonary artery smooth muscle cells from patients with idiopathic pulmonary arterial hypertension. Int J Cardiol. 2012
- Miura A, et al. Three-dimensional structure of pulmonary capillary vessels in patients with pulmonary hypertension. Circulation. 2010