各種疾患・治療法
先天性心疾患
成人先天性心疾患とは?
生まれながらの心臓の病気(先天性心疾患)の治療の進歩に伴い、多くの方が18歳を超えて成人期に到達しています。また、診断の進歩に伴い、成人期に初めて診断される方も少なくありません(図1)。
このように成人期に到達した先天性心疾患は、成人先天性心疾患と呼ばれており、その患者数は小児より多いと報告されています。
しかし、成人先天性心疾患では、先天性心疾患の問題だけでなく、成人期に特有の病気や問題も合併し、より専門的な医療が必要になります。
岡山大学病院では、循環器内科、心臓血管外科、小児科を中心として、複数の科や診療部門と協力して、全人的かつ先進的な医療を提供しています。
診療している患者様の数は日本でもトップクラスであり、さらに他施設で治療困難な患者様の診療依頼も数多く受け付けています。
以下に、いくつかの代表的な先天性心疾患について紹介いたします。もちろん当院では紹介した疾患以外の成人先天性心疾患について対応可能ですので、ご遠慮なくご相談下さい。
心房中隔欠損
心房中隔欠損は、左右の心房を隔てる心房中隔に穴があいている先天性心疾患です。
成人期に初めて診断される患者様も非常に多く、年齢を重ねるごとに心臓の負荷が表面化し、息切れなどの症状を呈すると治療が必要となります。
本疾患のカテーテル閉鎖術は2005年に本邦で認可され,成人に対する治療経験は国内トップの症例数を誇っています(図2)。
卵円孔開存
心房中隔が弁のようになる状態が卵円孔開存症です(図3)。
通常は血液の交通はありませんが、まれにわずかな漏れが生じた際に静脈の血栓が左房に流れ、脳梗塞などの血栓塞栓症の原因となります。
当院は2010年より全国に先駆けてカテーテル閉鎖術を実施してきました。
2019年より正式に承認され、現在も豊富な経験を活かして治療を行っています(図4)。
ファロー四徴症
肺動脈(弁)狭窄、心室中隔欠損、大動脈騎乗、右室肥大、の4つの特徴を持つ代表的なチアノーゼ性(血液中の酸素濃度が低くなる)先天性心疾患です。
複雑な先天性心疾患ですが、治療法の進歩により、多くの患者様が成人期に到達するようになりました。
しかし、成人になっても、肺動脈弁閉鎖不全、右心不全、不整脈、等々の多くの問題を抱える患者様もおられます。
岡山大学病院ではこれら全ての遠隔期の合併症に対応することが可能です。
さらに、2023年より経皮的肺動脈弁置換術(カテーテルによる肺動脈弁治療)も可能になり、より患者様に負担が少ない治療も行っています(図5)。
房室中隔欠損
心房と心室の間にある房室弁が一つ(共通房室弁)であることが主な特徴です。
不完全型は、①共通房室弁の前尖と後尖が結合しており(通常、弁口が二つ)、②心房中隔一次孔欠損のみ、③心室間交通を伴わない、ことを特徴とします。成人期で初めて診断される症例もあります。
完全型は、共通房室間孔(通常、弁口が一つ)、②両心房の交通、③両心室の交通、を特徴とします。通常は小児期に修復術が行われます。
術後の遠隔期に、房室弁逆流や左室流出路狭窄、などをきたすことがあり、定期的な診察が必要です。
エブスタイン病
三尖弁(右心房と右心室の間の弁)の付着位置の異常、右室機能障害を特徴とする先天性心疾患です(図6)。
出生時に手術が必要な患者様から、成人期に初めて診断される患者様まで様々です。
また、心房中隔欠損や頻脈性不整脈が合併することもあります。
成人期に初めて診断された患者様に対する三尖弁形成術(Cone手術など)や不整脈治療、心房中隔欠損の閉鎖術など多岐にわたる治療を各科と連携しながら実施しています。
小児期に治療された患者様の病状評価や再治療も積極的に行っています。
完全大血管転位
右心室に大動脈が、左心室に肺動脈がつながっていますが、心房と心室関係は一致してる先天性心疾患です。
以前は、心房で血流を転換させる心房スイッチ手術(セニング手術やマスタード手術)が行われていました。この手術では体心室(全身に血液を送る心室)が右心室となることが最大の問題点でした。
最近では、体心室を左心室に出来る動脈スイッチ手術(ジャテーン手術やラステリ手術)が主流になっていますが、大動脈弁閉鎖不全などが遠隔期の問題となっています。
どの手術でも、定期的な診察が必要です。
修正大血管転位
心房と心室の結合、そして心室と大血管の結合が不一致であることが大きな特徴です。
つまり、右心房と左心室、左心房と右心室がつながっており、さらに左心室から肺動脈、右心室から大動脈がつながっています。
小児期にダブルスイッチ術(完全大血管転位の項にあります、心房スイッチと動脈スイッチ手術を同時に行う手術)を受ける患者様から未治療で経過を見られている患者様、さらに成人期に初めて診断される患者様までおられ、非常に多彩な病態を示します。
成人期に初めて診断される症例でも、三尖弁閉鎖不全、体心室である右室の機能不全、房室ブロック、といった様々な合併症もあり、手術の有無にかかわらず、定期的な診察が必要です。
フォンタン手術
先天性心疾患の手術では、二心室修復を目指しますが、それが困難な場合があります。
その際には、静脈の血液を心臓を介さずに直接、肺動脈につなぐ手術を行い、フォンタン手術と呼ばれています。
この手術ではチアノーゼの改善と心室への容量負荷の軽減を目的としています。
この手術を行う先天性心疾患は多彩で、さらに特殊な血行動態に伴う様々な全身の合併症があり、複数科での定期的な診察が必要です。
当院ではこれまで数多くのフォンタン手術を施行しており、患者様の数は日本屈指です。