岡山大学循環器内科 岡山大学循環器内科
頻脈性不整脈メインイメージ

心房細動

心房細動は身近な不整脈

心房細動は出現頻度の高い不整脈で、発症する割合はおよそ100人に1人、80歳以上の限定する15~20人に1人と言われており一般的に遭遇しやすい不整脈と言えます。心房細動になると脈が乱れるため自覚症状を生じることが多く、また心房細動が引き起こす合併症が大きな問題となります。進行性の病気であり初期は時々起こるだけの発作が、徐々に頻度が多くなり、また持続時間も長くなり、最終的に慢性化してしまいます。そのため心房細動を早期に発見し適切な治療介入を行うことが大切です。

どのような人がなりやすいのか

加齢は心房細動のリスクの一つであり誰にでも起こりうる不整脈です。遺伝性に生じることもあります。他には高血圧、糖尿病、心不全・弁膜症・心筋梗塞といった心臓疾患、睡眠時無呼吸症候群、甲状腺疾患などで発症リスクが高くなることが知られており、ストレスや飲酒、喫煙、疲労、睡眠不足など生活の質の低下が原因で起こることもあります。心房細動の予防のため、または一度発症した方でも心房細動の治療に加えこれらの病態に介入することも重要です。

自覚症状

人によって様々ですが、動悸、息切れ、めまい、胸部不快感、全身倦怠感などがあります。 しかし、心房細動のある方の約半数は症状がないとされています。健診や医療機関を訪れた際にたまたま指摘されたり、脈の不整で患者さん自らが気づくこともしばしばあります。

心房細動が引き起こす合併症 <脳梗塞と心不全>

心房細動の発作そのものは直接命に関わるものではありませんが、引き起こされる合併症には注意が必要です。心房が非常に早く興奮(400~600/分)するため、もはや心房はブルブルと震えている状態です。

そのため、血液がよどみ心房の中に血の塊(血栓)ができやすくなり脳梗塞の原因となります。脈の乱れが継続することで心臓が疲弊しポンプ機能が弱くなり、心不全を引き起こしやすくなります。認知機能低下との関連も指摘されています。

これらの合併症のため心房細動がある人はない人に比べて長期的な生存率が低下することが分かっています。

心房細動の治療

大きく分けて『血栓をできにくくする治療(脳梗塞の予防)』と、『脈のばらつきを治す治療(心房細動自体の治療)』の2つがあります。
『血栓をできにくくする治療』は、抗凝固薬(いわゆる血液をさらさらにする薬)を内服して血栓を予防します。
『脈のばらつきを治す治療』には、不整脈をコントロールする薬の内服、カテーテルアブレーションがあります。カテーテルアブレーションは一般的に薬の内服よりも有効性が高いことが報告されています。患者さんの病状は様々ですので、患者さんごとに適した治療法を考えていきます。

心房細動に対するカテーテルアブレーション

カテーテルアブレーションは不整脈の原因となる心臓内の異常な電気信号や電気回路を焼灼(しょうしゃく)することで不整脈の根治を目指す治療です。

心房細動に対するカテーテルアブレーション治療は、日本でも年間10万人を超える方がこの治療を受けられており、当院でも多くの患者さんに行っています。

心房細動になって間もない方、症状のある方、心臓の機能が落ちている方は積極的な治療適応ですが、それ以外でも患者さんの病態やご希望に応じて幅広く治療を行っております。

当院は重症心不全、心筋症、成人先天性心疾患などの複雑な疾患を多数診療しております。これらの複雑な疾患に伴う心房細動やハイリスクの患者様に対しても、当院は安全性を重視しつつも積極的に治療を検討・実施しており、豊富な治療実績を有しております。

心房細動に対するカテーテルアブレーションの方法

心房細動が起こる主な原因は、肺静脈(肺から左心房へ血液を送るための血管)付近から生じる異常な電気興奮ということが分かっています。このため肺静脈と左心房の境を焼灼して、肺静脈からの異常な電気興奮が左心房に伝わってこないようにすることで心房細動を治すことが可能です。この方法を『肺静脈隔離術』といい、心房細動アブレーションの肝となる治療です。
一般的に、心房細動の初期である発作性心房細動であれば1回の治療で70~80%、再発した場合でも2回目の治療を行うことで80~90%の成功率を達成できるとされています。
当院では最新のアブレーション機器や3Dマッピングシステムを用いており(図)、被ばくが少なく安全性の高い治療を実現しています。全例で鎮静薬を使用し眠った状態で痛みの少ない治療を心がけており、少しでも不安を取り除き安心して治療を受けていただけるよう努めています。ご希望の方には全身麻酔での治療も行っています。

『肺静脈隔離術』以外のアブレーション方法(難治性の方)

心房細動が長く続いている方や心房の拡大が進行している方、心房頻拍を合併している方などは、肺静脈隔離術のみでは根治できる可能性が下がります。その場合、肺静脈以外の異常興奮起源を探して焼灼したり、心房内の電気的に傷んでいる部分を焼灼するなど、患者さんの病態に応じた追加治療を行います。
近年、左心房の外側を走行するマーシャル静脈へエタノールを注入する新しい化学的アブレーション法が登場し、多くの研究で有効性が確立されてきております。全国的に施行できる施設はまだ限られておりますが当院ではこの治療法を開始しており、主に再発性の難治性症例に対して実施しています。

上室頻拍

上室頻拍の症状

突然心拍が速くなり、それとともに、動悸症状、胸苦しい感じ、ふらつきやめまい、ひどい場合には血圧が低下し、意識を消失するような発作がある場合、上室頻拍であることがあります。

多くは突然始まり、突然終わります。異常な心拍リズムの原因が心室以外の組織(心房など)から生じていれば、上室頻拍と診断されます。

上室頻拍の種類

種類は以下の3つに大別されます。

①心房頻拍 
心房からの異常な電気信号で発生する不整脈であり、局所からの異常な興奮が原因である場合と、異常な回路を回り続けることが原因である場合があります。

②房室結節リエントリー性頻拍
 
心房と心室の繋ぎ目には、房室結節という中継点があります。この房室結節に入り込む経路は、複数存在する場合があり、これらの経路を電気信号が繰り返し回り続けることで、発生する頻拍を房室結節リエントリー性頻拍と呼びます。

③房室リエントリー性頻拍

心房と心室の繋ぎ目の房室結節という中継点以外に、心房から心室へ電気信号が伝わる異常な経路があり、これらの経路を電気信号が繰り返し回り続けることで発生する頻拍を房室リエントリー性頻拍と呼びます。


上室頻拍の診断

発作時に心電図を捉えることが非常に重要ですが、病院に到着した時には症状がおさまっており、診断がつかなかったという方はよく経験されます。
運動負荷心電図、長時間心電図により、診断がつくことがあり、心電図を取りながら、ベルトコンベアーの上を歩行・走行するトレッドミル検査や、24時間、1週間ホルター検査を行うことが可能です。 1週間ホルター心電図は配線がなく入浴が可能で、郵送で返却いただけるため日常生活の制限がより少ない検査となっております。上記にても診断がつかない方については、1ヶ月程度を目処に、携帯型心電計の貸し出しを行い、より正確な診断・治療ができるよう努めています。
上室頻拍の種類についての正確な診断は、カテーテル検査による電気生理学的検査が必要です。根治希望を希望される場合には、3泊4日程度ご入院頂き、電気生理学的検査とアブレーション治療を同時に行います。


上室頻拍の治療

上室性不整脈の治療方法は症状の重さやタイプにより異なります。

①薬物療法
利点としては手軽ですが、欠点として治療効果が得られにくい場合があることや、徐脈発作の他、危険性の高い不整脈を誘発する可能性があります。

②カテーテルアブレーション

不整脈の原因部位を焼灼することで、根治治療になりうる治療です。高周波アブレーションとクライオ(冷凍)アブレーションがあり、いずれも選択可能です。合併症の危険は稀です。正常の伝導路などに近接しており治療が難しい方が一部おられます。

当院では6人の不整脈専門医を有し、臨床工学士、看護師を含め治療経験の豊富なスタッフがチームとして治療に取り組んでおります。最新のマッピングシステムを使用しており、難治性不整脈治療にも積極的に取り組んでおります。上室頻拍の種類についての正確な診断は、カテーテル検査による電気生理学的検査が必要です。根治希望を希望される場合には、3泊4日程度ご入院頂き、電気生理学的検査とアブレーション治療を同時に行います。

心室不整脈

心室不整脈に対するカテーテルアブレーション

心室不整脈には、病的心筋のから発生する心室性期外収縮(単発)・巣状興奮心室頻拍(連発)、特定の回路を旋回するリエントリー性心室頻拍とに大別されます。心臓の状態にもよりますが、薬物療法が無効あるいは薬物療法を希望されない場合や、植え込み型心臓デバイスによる治療上問題となっている場合などにおいて、カテーテルアブレーションが選択されます。心室不整脈の発生源・回路を同定し、焼灼術を行います。

当院における心室不整脈アブレーションについて

当院の心室不整脈のアブレーション治療は、中四国地域においてトップクラスの実績を有しております。
心室不整脈を有する患者様には、心筋症、虚血性心疾患、先天性心疾患などが併存していることが多いため、基礎心疾患を含めた精査、病状評も併せて行います。
当院では先天性心疾患などの複雑な構造的心疾患や遺伝性不整脈などにおいて、多数の患者様の診療を担っており、その様な症例での心室不整脈診療・アブレーションについて多くの経験があります。加えてアブレーション治療に必要な3Dマッピングシステムをはじめとした最新の治療機器を常に用いており、質・再現性ともに高い治療を心がけております。
過去に治療が困難であると言われたケースでも、当院で対応可能な場合があります。
お困りの際には是非お気軽にご相談ください。

ACHD不整脈

成人先天性心疾患に伴う不整脈

  • ・成人先天性心疾患(ACHD)の患者さま方において、不整脈への対応は非常に重要です。
  • ・ACHD患者さまは先天的な構造や心筋の異常による心房・心室の圧負荷や容量負荷、心筋の肥大や変性が生じています。また外科的修復術を受けておられる方には、手術の特徴や切開や縫合に伴う瘢痕が存在します。これらは全て不整脈を引き起こす素地(不整脈基質)となり、経年的にも進行していきます。ACHDの患者さまが不整脈を発症する可能性が高いのは、これらの不整脈基質を有するためです。
  • ・ACHD患者さまにおいて不整脈の発症は、動悸や不快感により生活の質(quality of life: QOL)を損ねるだけではなく、失神、心不全、時に心臓突然死の原因となることもあることから、早期診断と早期の適切な治療が極めて重要です。
  • ・不整脈には頻脈性不整脈(脈が早い)と徐脈性不整脈(脈が遅いまたは延びる)があり、いずれもがACHDの患者さまに生じうる不整脈です。

ACHDに伴う不整脈の治療

  • ・頻脈性不整脈に対する治療としては、薬物治療、カテーテルアブレーション、③植込み型除細動器(ICD)などの植込み型デバイス治療があります。カテーテルアブレーションは不整脈を根治する可能性がある治療です。ICD植込みは心室頻拍や心室細動などの心室不整脈を有する、もしくは発症リスクが高い患者さまに選択されます。複雑な不整脈基質を有するACHD患者さまにおいては、これら3つの治療を組み合わせて行います。
  • ・徐脈性不整脈に対してはペースメーカー治療があります。解剖学的な問題によって通常行う経静脈的アプローチでは適切な位置にペースメーカーのリードを留置できない場合があり、必要に応じて心臓外科と連携して治療を行います。

当院におけるACHD不整脈診療の特徴

  • ・当院はACHD診療の実績と経験が不整脈の分野を含め全国でもトップクラスです。
  • ・心房スイッチ術後、フォンタン手術後、心房中隔閉鎖デバイス留置後など、カテーテルアプローチが難しい心房不整脈や、複雑な心室不整脈の治療も最新の機器を使用して積極的に治療を行っています。
  • ・ACHDは比較的シンプルな疾患から複雑な構造や不整脈基質を有する疾患まで、病名が同じ患者様でも個々の病態は様々です。当科には不整脈専門医6名と成人先天性心疾患専門医6名(うち2名は両方の専門医資格あり)が在籍しており、チームでディスカッションを行いながら患者さまにとってベストな治療をご提案します。
  • ・科内の心不全チームや肺高血圧チーム、さらに心臓血管外科や小児循環器科、産婦人科など他診療科とも連携し、不整脈だけの診療にとどまらず、全人的なフォローを目指します。